ババジは「上司より輝くな」と言った

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アーユルヴェーダにおいて心の領域は広い概念です。思考を司る器官としての心(マナス)、知性(ブッディ)、自我(アハンカーラ)、潜在意識(チッタ)が心の領域です。私たちはつねにアハンカーラに縛られています。「私は日本人の女性である」というのもアハンカーラ。「僕はほかの誰よりも頭がいい」と思うのもアハンカーラです。このアハンカーラが自分を苦しめるのです。

ジヴァのヴェーダ哲学部門にはサッティヤナラヤナ・ダーサ・ババジというヴェーダ哲学者がいます。後光が差しているような人なのに、当校のゴミ出しのときにゴミを持ってあげるよと言ってくれる人です。私は恐縮して「けっ、結構です」とお辞儀をしながら後づさったのでした。そのババジが「上司より輝くな」と言ったというストーリーです。アハンカーラを説明した話です。私も完全に理解できたわけではないのですが、アハンカーラを理解する上で興味深いストーリーなのでシェアします。この文章はババジのアシュラム(ジヴァ・ブリンダーヴァン)でヴェーダを学ぶ心理カウンセラーのジェシカが書いたものを私がコンパクトにまとめたものです。

Jiva Institute of Vaishnava Studies
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ババジとジェシカは「ヴェディック心理学」の本を制作中でした。ババジがジェシカに「アメリカにこの本を発行してくれる出版社がないだろうか」と聞きました。ジェシカには心当たりがありました。彼女がかつてダイレクターとして働いていたスピリチュアル系の出版社です。さっそくその会社のCEOにメールしました。しかし2日たっても返信が来ず、2回目のメールにも音沙汰なし。3回目のメールを送るとCEOの秘書から返信が来ました。それにはこう書いてありました。「CEOはかつての従業員からのメールには返信いたしません」ジェシカがババジにそれを伝えると、ババジは無言のままでした。

5分が過ぎたころ、ババジは静かに「どうしてその出版社を辞めたの?」とジェシカに尋ねました。「どうしてって?CEOが私に嫉妬して、それで私をクビにしたのです。私にはどうすることもできませんでした」とジェシカは答えました。

「それは妙だね。CEOがあなたに嫉妬したってどういう意味?何があったの?」とババジは強く聞きました。

ジェシカは尋問されているような居心地の悪さを感じました。「私はその会社のダイレクターとして採用され、他社との提携事業を任されました。私は自分の任務を果たしましたが、うまくやりすぎたのだと思います。1カ月もしないうちに、私の直属の上司が『CEOがキミに嫉妬しているよ』と言ってきました。私は任務を果たしただけなのに」

ババジは容赦なく質問を続けました。「それだけではないだろう。あなたが指示された通りのことをしていたのなら、どうしてCEOはあなたに嫉妬したの?解せない」

ババジがクビにされた自分のほうを責めているように感じ、ジェシカはイライラしながら答えました。「CEOは私に自分の友人リストを渡してくれて、この人たちと仲良くしなさいと言ったので、私はそのとおりにしました。しかしCEOは私に脅威を感じ始め、どういうわけか、CEOの友人たちが自分より私を高く評価していると思うようになったのです。私の直属上司からは、CEOの友人がCEOに電話して、キミのことをほめていたよと耳打ちされました。CEOはそれが気に入らなかったはずです」

ババジは執拗に質問を続けました。「会社があなたをクビにしたとき何と言ったの?CEOの嫉妬だけが理由ではないのではないの?」

ジェシカは傷つき、怒りと不公平感で顔が赤くなりました。ババジは私の見方ではなかったの?「会社は、私のポジションが廃止されたことを解雇の理由に挙げましたが、私はクビの理由がわかっていました。直属上司のハラスメントまがいの言動に嫌気がさし、CEOの発言など聞きたくないと直属上司に言ったのです。それから間もなく人事部の人が来て、解雇を言い渡されました。私はCEOの嫉妬をどうすることもできないわけで、それはCEOの問題です」

ババジは笑い出し、ジェシカのイライラはさらに募りました。「ほんと?違う対応はできなかったの?」

ジェシカの怒りはさらに高まり、「できることがあったとすれば、直属上司がCEOの嫉妬の話を私にしたときに、さっさと会社を辞めるべきでした。CEOの感情的虐待に数カ月も悩まされる必要などなかったのです」

ババジはジェシカの怒りを気にする風もなく、静かに冷静にこう言いました。「あなたは高額な給与をもらい、高いポジションについていた。クビになる必要なんかなかったのです。クビになったのはあなたの落ち度です」

ジェシカは屈辱を感じ、怒りの口調で「はい、どうも」と言いました。ババジは再び笑いながら「なにが間違っていたのか知りたくないの?」と言いました。「いえ、結構です」と答えたことにもお構いなしにババジは続けました。

「違ったアプローチをとっていれば、高給とりのポジションを失わずに済んでいたはずだ。しかし、あなたは職場の人間関係の扱い方を知らなかったのだね。職場の政治力学に疎いのだね。単純すぎるのだよ。それがいい場合もあるが、この場合は単純さがあなたを傷つけたのだよ。人間関係の政治力学を学ぶ必要がある」

ジェシカはババジから逃れられないことを認識し、自分のバカさ加減についてのババジの見解に興味があるフリをしました。ジェシカが期待したのは、ババジがCEOと直属上司の愚かさを非難し、自分に同情してくれることでした。

しかしババジの話はそうではありませんでした。「まず人間というものを理解しなければならない。だれでもアハンカーラ(自我・エゴ)をもっている。人が自分より優れていると感じたくはないのだよ。とくにCEOは、新入社員に友達をとられたと思っているのだよ。相手の立場に立ってみなさい」

「ですが、私は自分の任務を遂行したまでです。ほかにどうしろとおっしゃるのです?」と言ってジェシカは自分を守ろうとしました。

「任務を忘れなさい。あなたは大事なことを見失っている。あなたがすべきことは、自分の立ち位置をわきまえ、それに従って行動することだよ。あなたはCEOではないだろう?あなたはヴァイスプレジデントではないだろう?あなたはダイレクターとしてヴァイスプレジデントを支え、ヴァイスプレジデントはCEOを支える。それがあなたの任務なのだよ。しかし、あなたは何をした?直属上司に黙れと言った。その上司はどう感じただろうか?あなたから見下されたと感じただろう。CEOも動揺していた。あなたがすべきだったことは、CEOに会って、彼女の友人達が彼女を尊敬していることを伝えるべきだった。あなたの任務はCEOの自我を傷つけないこと。しかし、あなたは自分の自我が傷つくことを気にしていた。あなたは上司が自分を理解していないことを気にしているが、あなたの任務は上司を理解することなのだよ。謙虚と感謝の態度を示すことなのだよ。あなたは自分のほうが上司たちより優れていると思っていた。あなたのアハンカーラがあなたをクビにしたのだよ。

ババジは言いました。「上司より輝いてはいけないのだよ」

ジェシカの体のなかでババジの言葉が鳴り響き、自己防衛の気持ちが打ち砕かれた思いでした。モンスーンの雨が頭をクールダウンするように、不満、イライラ、怒りがさっと静まるのを感じました。

ババジは続けました「このシンプルな教訓を理解したなら、生き方はもっとラクになるだろう。あなたは頭もいいし、親切だし、一生懸命働くし、創造力もある。成功の要素は揃っている。ただ1点だけ欠けている。上司より輝いてはいけないということを忘れなければ、あなたは輝くだろう。自分だけで輝くのではない。上司を輝かすことによって自分も輝くのだよ。そうすれば、仕事も個人生活もスピリチュアルライフも輝くだろう」

ババジは言いました。「人は他人より自分のほうが優れていると考える。それがアハンカーラというものだ。だから、謙虚であり、他の人を自分の上司と思って扱いなさい。仮に自分より高いポジションの人でなくてもそうしなさい。人間はそう思えるように訓練されてない。私がいくら授業でアハンカーラについて講義をしても、だれも理解しないのだよ。アハンカーラについて何年も学んでも人を非難する。自分が正しくて、他人が間違っていると。私があなたにいろいろ質問したとき、あなたはうれしかったですか。そうではないだろう。不快だっただろう。それがアハンカーラなのだよ。アハンカーラは非難を嫌う。」

「よい人間関係を築くためには、自分の感情や思考に気づかなければならない。それが人生を成功に導くために必要なことだ」

ジェシカはババジから受けたパンチに感謝したのでした。

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私にも似たような経験があります。上司ではありませんが、同僚が休暇前に仕事が溜まっているというので手伝いました。がんばって手伝いました。その同僚は休暇に入りました。休暇から戻った同僚は私にまったく口を利かなくなりました。別の人から「手伝いすぎたらしいよ。彼女は自分の領域を侵されたと思ったようだよ」と聞かされました。私は同僚の心理を理解できませんでしたが、ババジのアハンカーラの話で理解できました。私のアハンカーラは「同僚より私のほうが優れている」と思っていたのかもしれません。

ババジのアハンカーラの話を100%理解できたわけではありませんが、理解がむずかしいアハンカーラに対する理解度が高まったように思います。

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